「より良い音」について・・今、思うこと

AAFC 連続エッセイ
投稿日
2013/08/31
執筆担当
横田 一郎
 

□まだ、入会したての私にこのリレーエッセイのバトンが思いがけず手渡され、いささかうろたえているところですが、せっかくですので自己紹介も兼ねて書かせて頂こうと思います。

□さて、音楽ファンであれ、オーディオマニアであれ、私たちは多くの場合、オーディオ装置を通して音楽を楽しみます。そして多くの方は、自分のオーディオ装置の音をより良くしようと日々努力されていらっしゃいます。私も含め、かなりの時間や手間をかけ、またお金もかけているのです。ところで、ここで改まって「より良い音とはどんな音なのか」という疑問を投げかけられたとき、明確に答えるのは以外に難しいのではないでしょうか。

□会員のページに「私のオーディオライフ」がありますが、 その中のアンケートにどのような音を目指すかを書く欄があります。皆さんそれぞれに目指すところを述べておられますが、「全くそのとおり」と同感することばかりです。実在感のある音、繊細な音、力強い音等々、どれひとつとして欠くことのできない要素です。

□私がオーディオの世界に初めて足を踏み入れた頃、Hi-iという表現がそこここに見受けられました。しかし最近、とんとみかけなくなってしまいました。私がオーディオの世界に入門したころは、オーディオをやるということは、イコール高忠実度の追求であって、そのために、少しでも特性の良い機器を求めたり、その使いこなしを工夫したり、また、オーディオ関係の書籍から知識を得て試行錯誤を繰り返しました。ところが、最近のオーディオ機器や書籍を眺めていると、音楽再生をより良くしようという姿勢が薄れてしまっていると感じるのは私だけでしょうか。時間の経過による言葉の陳腐化もありますが、私はオーディオ界全体の流れが、忠実度を高めるという姿勢を放棄してしまったのではないかとさえ思ってしまいます。

□確かに原音に忠実であること、あるいは目指すことが途方もないことであることは重々承知しているつもりです。でも、音楽は生きた人間の行うパーフォーマンスです。このパーフォーマンスをマイクロフォンで拾ってなんらかの記録媒体に収め、それを再現する、これがオーディオの原点なのです。

□生の演奏と再生音は違う!この事実は明白です。にもかかわらず、再生音でも音楽の感動を味わえる!矛盾するようですが、事実なのです。私はこれがあるから、LPやCDを買い集めてきましたし、オーディオをやってきました。

音楽は、演奏する側から聴く側への、音を手段とする意思の伝達です。皆が集まって同時に聴いていたとしても、実態は極めて個人的な意思疎通なのです。つまり音楽を奏でている事実は紛れもなくひとつの客観的事実ですが、それを聴いている主観は人数分存在するのです。

□ここに、「より良い音とはどんな音か」の問題の核心の一つ目があります。

その場合、生の演奏を聴くか、オーディオ装置で聴くか、これはどちらでもよいのです。安物のCDラジカセでバッハを聴いて感動している人がいて、「それは生演奏とかけ離れているよ」なんてアドバイスは、「大きなお世話」というものでしょう。音楽の喜びは、極めて主観的なものであり、個人的なものですから、本人がそれを聴いて心地よく、人生の喜びを感じられればそれはその人にとって十分良い音と言えるのではないでしょうか。それが生の演奏とかけ離れていたって何も問題ありません。他人の迷惑にもならないのです。

□さて、問題はこの先です。それは、この主観的満足の関係が、限られたCDあるいはLPとの間でしか成立しないということです。ここから、「大きなお世話」が無視できなくなる事情が生じます。大雑把な言い方になりますが、オーディオを趣味にしている方のほとんどは、この主観的満足を中心に据えながら、影のようにつきまとう、あの「大きなお世話」を見ないようにしているのではないでしょうか。

□ところでこの他人に言われると腹の立つ「大きなお世話」ですが、視点を変えて演奏者の立場にたって考えると非常に重要なアドバイスであり、良い音への貴重な指針であることがわかります。オーディオは芸術を伝える技術であると私は考えています。ですから、過去の音楽家が渾身の力を込めて空間に発散した波動を過不足なく聴取者に伝える。到達点の方向はここにあると私は考えざるをえません。これが二つ目の核心です。

□仮定の話ですが、理想の状態に近づいたシステムはどんな音がするのでしょうか?論理演算的に考えれば、たとえばAさん宅とBさん宅の音が、同じ鳴り方になるでしょう。システムの無個性化が進めば、相関的に本来再生すべき音楽家の個性がさらに明らかになるはずです。今、私が、思う「よりよい音はどんな音か」、こんなところでしょうか。

でも、こんなことになったら個性的で素晴しいオーディオシステムの構築に日夜努力されている方から、 きっと「大きなお世話」だといわれてしまいますね。

 

このあとは、池田充宏さんにお願いいたしました。よろしくお願いいたします。

 

以上

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